氷の美女と冷血王子
「どうした?」
私以上に驚いた表情の孝太郎が、優しくトントンと背中を叩く。

そのリズムが気持ちよくて、私は孝太郎に体を預けた。

「何があった?」
そう問う声は、とても優しい。

「徹から孝太郎がケガをして病院へ運ばれたって連絡があって、来てみたら緊急手術中で、重篤な状態だって言われて・・・私・・・もう孝太郎に会えないのかと思って・・・」
後から後から溢れ出る涙は、孝太郎の高級スーツに染み込んでいく。

こんなに泣きじゃくったのはいつぶりだろう、思い出せないくらい遙か昔のこと。
恥も外聞もなく、私は泣き続けた。

「安心しろ、俺は元気だ。今日は定期受診に来ただけで、トラブルに巻き込まれたわけじゃない。お前は、徹に担がれたんだよ」
「え?」

孝太郎に言う通り、今日は1ヶ月前の騒動で負った肋骨骨折の定期受診だった。
骨折と言っても、キブスがあるわけでも行動制限があるわけでもなく、日にち薬みたいなケガは週に1度の通院で経過観察となっていた。

「本当に大丈夫なの?」

それでも骨折と聞けば心配になる私。
しかし、

「たった1ヶ月でこんなに小さくなってしまったお前に言いわれてもなあ」
意地悪い視線と共に言い返されれば、黙るしかない。

「お前は、俺のことを心配して駆けつけてくれたんだな?」

「うん。まあ」
ここまで派手に抱き付いたからには、言い訳はできない。

「麗子」

頭の上から名前を呼ばれ、私は顔を上げた。

「もう、無理だ。お前のために、お前のことを思って、必死にいい人を演じようとしたが、限界だ。俺は、どれだけ嫌われても、お前のことを離したくない。結果的にそのことがお前を苦しめることになっても、もう諦めることはできない」

「・・・孝太郎」

病院の外来待合なんて人の多いところで、私は告白を受けている。
周囲からの視線と、場違いな感じは否めないが、それ以上に幸せな気持ち。
だって、
私も孝太郎のことが好きなんだもの。
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