氷の美女と冷血王子
もう、離れない
会えない時間があったからだろうか、以前にも増して孝太郎の溺愛っぷりに拍車がかかった。

朝のおはようメールから始まって、少しでも時間があればランチに誘ってくるし、夕方も2日に1度は私の部屋に帰ってくる。
もうどっちが孝太郎の家なんだかわからない生活。

もちろん私も孝太郎が好きなわけだから、一緒にいられるのは幸せなんだけれど・・・


「ねえ君、綺麗だね。モデルさん?」
「いえ」

孝太郎と付き合うようになってから街中でよく声をかけられるようになった。
スカウトだったり、ナンパだったり、形は様々だけれど、とにかく呼び止められる。

徹に言わせれば、「お前の幸せが顔に出ているから」らしい。
実際最近の私は、孝太郎の側にいても恥ずかしくないようにときちんと化粧をするようになったし、着るものも女性らしいものを選ぶようになった。
それに、「あんた、顔が優しくなったわね」って母さんに言われるくらいだから、表情の変化もあるんだと思う。


「ねえ彼女、僕こういうものなんだけれど」
後ろから追いかけてきた男性が差し出した名刺。

書かれていたのは大手プロダクションの名前。

「良かったら少し話できないかな?」
「いえ、私は」
興味ありませんと言いたいのに、

「そんなに時間は取らせないから。ねえ、いいでしょ?」

「いえ、本当に」
結構です。と言いかけた私の肩に手が乗せられた。

随分強引ね。
その辺のナンパよりたちが悪い。

「何でも好きなものをおごるからさあ」

ちょっと強引に肩を引こうとされたその時、

「麗子」
聞き慣れた声がして、孝太郎が現れた。

なんとも険悪な雰囲気に視線を泳がせる私と、さっきまで私の肩に手を乗せていた男性を交互に見て、

「彼女に何か?」
とっても冷たい声で、男を威嚇する。

「イヤ・・・」
孝太郎の高そうな身なりと、威圧感に男はすぐに引き下がり去って行った。

「ありがとう、助かったわ」

もちろん1人で対応できないわけではないけれど、孝太郎が現れてくれたお陰でしつこく絡まれないですんだ。
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