氷の美女と冷血王子
珍しく午後から時間がとれたという孝太郎と、私は並んで街中を歩いた。
取り立てて何の目的があるわけでもないけれど、ブラブラと見て回るだけでとても楽しい。

ああ、マズいな。
こうやって孝太郎の隣にいることに慣らされている自分がいる。

「なあ」

え?

私と同じく、2人でいることに幸せを感じてくれていると思っていた孝太郎の声が思いの外険しくて、びっくりした。

「どうしたの?」

「お前、何でそんなに綺麗なんだよ」

はああ?
ポカンと口を開けたまま見返してしまった。

「ちょっと目を離すとすぐにナンパされてるし」
「だって、それは・・・」
私が望んだことじゃない。

さすがに、思いっきり孝太郎を睨み付けた。

「そうだよ、その顔をしてろ。そうすれば誰も声なんてかけないから」

「私、帰る」
せっかくのデートだと思って喜んでいたのに、いわれのない嫉妬で攻められる覚えはない。

くるりと方向転換をして背を向けた私。

「待てよ」
後ろから孝太郎が私の腕をつかんだ。

そして、
ギューッと抱き寄せられた。

「ウソ・・・」

ここは街中の往来。
当然人の目があるわけで、

「孝太郎?」

何かあったの?どうしたの?
聞こうとした私は、孝太郎にすっぽりと包み込まれ言葉が続かない。

「よそ見をするな。お前は、俺だけを見ていろ」
耳元にそっとささやかれた言葉。

私の胸の奥が、キューンッと締め付けられた。
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