氷の美女と冷血王子
「無理強いしてごめんなさいね」
彼女が奧へと消えて言ってから、ママが申し訳なさそうな顔をした。
「いえ」
「でもね、麗子は洋裁もちゃんと習わせたからプロ級よ。安心して任せてちょうだい」
自慢げなママ。

「洋裁ですか、すごいですね」
「洋裁だけじゃないわ。お茶もお花も料理も、一通りのことはできるの」

へー。
花嫁修業は完璧って訳だ。

「そこまでするってことは、いい縁談でもあるんですか?」
思わず聞いてしまった。

これだけ綺麗で何でもできれば、玉の輿だって夢ではないだろう。

「縁談ねえ、あればいいんだけれど。そう簡単にはね」
ママの肩が落ちたように見えた。

「だって、あれだけの美人なら縁談なんていくらでもあるでしょう」

もしかして、無理な条件を付けたりしているんじゃないのか?

「贅沢を言うつもりはないのよ。普通の人と平凡な結婚をしてくれればいいと思っているんだけれど、それがなかなかね」
ママは本気で心配しているらしい。

「そんなに心配しなくても・・・」
「じゃあ、お客さんがもらってやってよ」

ゴホ、ゴホゴホッ。
飲んでいたビールが気管に入った。

「ママ、冗談は」
「あら、本気よ」

いや、それは笑えない。
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