氷の美女と冷血王子
「あの・・・」

「ん?」

コースも終盤にかかり、食事をしていた彼女が何か言いたそうに俺を見た。

「すみませんでした」
フォークとナイフを置いて頭を下げる。

「何、どうした?」

「私のせいで副社長ともめたんですよね?」

「違う違う。元々専務とは相性が悪かったんだ」
君のせいじゃないと、言葉を強めた。

実際、今日もめなくても近いうちにぶつかっていたことだろう。
ずっと険悪な状態が続いていたから。

「でも・・・」

「本当に君が気にすることじゃない。それより、君は大丈夫?」
「え?」
「スーツのシミ。誰かに何かされたんだろう?」
「いえ、それは・・・」

人の服にコーヒーをかけようなんてよっぽどの恨みだ。
彼女が社内でそれだけの恨みを買っていたとは思えないが・・・

「俺のせいなのか?」
確か、彼女がそんなことを言っていた気がする。

「違います。専務のせいではありません。私が悪いんです」
必死に手を振ってみせる彼女。

でも、それは嘘だ。
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