氷の美女と冷血王子
「なあ、そんなに何でも抱え込んでいたら、疲れないか?」
しばらく彼女の反応を見ていた俺は、説教口調で聞いてしまった。

きっと、自分が悪くないことまで自分の責任と思って、彼女は飲み込もうとしている。
今までもきっとそうやって生きてきたんだろう。
しかし、それではダメだ。いつか彼女がつぶれてしまう。

「分かったようなことを言わないでください」
「え?」
思いの外強い言葉が返ってきて驚いた。

「専務に私の気持ちなんてわかりません。ですから、放っておいてください」

どうやらまた、俺は彼女を怒らせたらしい。
でもな、

「放ってはおけないんだ」
じゃなければ、こんな所まで連れてきたりはしない。

「お節介」
「知ってる。でも、誰にでもって訳じゃない」
君限定だ。とは言えなかった。

彼女も微妙な顔をしている。

「もう少し、飲みたいですね」
話をはぐらかすように、彼女が会話の矛先を変えてきた。

「えっ、ああ、そうだな」
俺も同じ気持ちだ。

「良かったらうちに来ますか?」
「はああ?」
随分大きな声をあげてしまった。

「だって、どこに行っても人はいますよ」
「それはそうだけれど」

「私のマンション、そんなに遠くありませんし。専務のお家は?」
「俺は実家」
「へえー」

こいつは今、この歳で実家住まいなのって思ったな。
まあ確かに、母さんの過干渉は否定しないが、なぜかムカつく。


「いいよ、行こう」
「はい」

何のためらいもなく返事をする彼女。
こいつは夜遅くに男を自宅に誘う意味が本当に分かっているんだろうか?
まあいい。俺ももう少し飲みたい気分だ。
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