イケメン拾った!魔法を隠して慎ましく?スローライフ…できてない!!
ライアンの苦悩
なんという日だ……

ベッドに身を沈めながら眠れない夜。
当たり前と言えば当たり前。ずっと王都に住まい淑女とはなんぞ、扱いはこうぞと学んできたのに…
今日は斜め上過ぎた。
今まで女性との色恋がなかったわけではない。父が宰相を失脚する前、学院にいたころはまぁそれなりに浮き名を流すこともあった。周りが羨むような美女も近くにあった。
が……腹黒かった。女とは。
毒の針を持ち、周りを蹴落とし色目を使う。直ぐに肌を許す者も居たが心底焦がれた相手は居なかった。本人がコルセットを外せばたるんだ肉、何重にもなにかを挟んで萎んだ丘……お帰り願った。泣かれても仕方がない。欲情しなければ。
そんな日々もあったから今があるのかも知れない。

「ふー…」

思い出したくなくても身体に纏うあの感触。腹にも背中にも首にも。なんて滑らかなんだ…なのに力強く己を運ぶあの逞しさ。
触れていたのはほんの一部だ。でも水に入る前の状態を目にしてしまった……そして布地が張り付く肢体。まずいだろう、あの手足の白さ、可憐さ。更に括れ、無駄肉は何処にもないではないか。
極めつけのあのたわわな二つの丘はなんだ!
思い返してはいけないのに脳裏から離れない。
騎士としてあるまじき邪念である。

「ダメだ…」

起き上がり水差しからコップに注ぎ入れ喉の乾きを落ち着ける。
近くにあった布で口許を拭うと…
また思い出した。
あろうことかマキアージュが着ていたワンピースを被せられた、なぜだったか。
王都の淑女は死んでもしない行為だ。そして押さえつけてきた。力なら上だが女性には乱暴しない、それが騎士だ。
そのときも顔面にあの丘…思わず息をしてしまった。したら最後だった…
なんだあの落ち着くかぐわしい香りは…天にも上るような。マキアージュは天女なのか。
もう廃人にでもなってしまうのではないか。人形でもいいからマキアージュに側に置いて欲しい………

バキっ!

「……っ」

咄嗟に拳で自分の頬を殴った。
当然痛いに決まっている。口の端から血が流れたのがわかった。そうではないだろう。冷静になれ……

しかしながら脳内の思考は止まらない。
あの頬に着いたソースが悪い。
何を思ってその…舐め取ってくれと。
出来るわけがない。妻にした者さえも食事の席でそれをするのは色狂いだけだ。

だが……マキアージュは純粋に取って欲しかったのだろう。俺が口で指図するのが疎ましかったから。昔からペロりが普通だったと。クソジジ…いや、育てのジジ様本気で恨ませてもらいますぞ。

あの世でじぃさんはテヘペロってしているでしょう。

指でソースを拭ったあれは最大限の譲歩だ。舌で拭うなど…
あぁ、あの油断した時にマキアージュが食んだパン。あんなものを口にしたら俺は…

バキっ!!!

更に増える反対頬に刻まれる鉄槌。

「捕獲対象かもしれないのにどうかしている……そうだ、思い出した」

何故あの時ワンピースを被らされたか。
思い出したライアンは何かを決意した。
多分、きっと彼女は……
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