不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


 必要なものは買い揃えればいいと言われていたけれど、実際引っ越す用意をしてみると荷物自体も多くはなかったし、新規で必要なものはこれといって思い当たらなかった。

 ちょうどなくなりそうと思っていたスキンケア用品や、新しい部屋着が欲しいと思っていたくらい。

 それが見られれば十分で、見たいお店が集まる新宿まで出てもらうようにお願いをした。

 マンションを出たあたりから、空からはしとしとと弱い雨が降り始めた。

 雨なら、外を歩き回らなくていい駅ビルはちょうど良かったと思いながらフロントガラスを弾く雨粒を見つめていた。

 車を駐車し、お決まりのように自らドアを開けて私を車から降ろした桜坂社長は、「さてと……」と私に向かっておもむろに手を差し出した。


「行きたい場所まで連れて行ってもらおう」

「えっ」


 出された手と、私を見下ろす桜坂社長の顔を交互に見てしまう。


 あの、この手の意味は……?


 リアクションに困っていると、桜坂社長のほうから私の手を掴み取る。

 驚く間もなく手を繋がれて、心臓がバクっと大きな音を立てて打ち鳴った。

 取られただけだった手は、指を交互に絡めて繋がれる。

 骨っぽい男の人の手の感触に、自分の顔面温度が急激に上がるのを感じた。

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