不本意ながら、極上社長に娶られることになりました


「あの、桜坂社長……今日は、ありがとうございました。本当に、こんなにたくさん……」


 車が駐車場を出ていくタイミングで、再び声をかける。


「また何か必要があれば声をかければいい。何も遠慮することはない」


 桜坂社長は前を見たまま、特になんの感情もなさそうな声のトーンでそう言う。

 仕方なく、という感じには聞こえないものの、義務として、事務的な行為のひとつのようなものなのかもしれないとふと思ってしまった。

 前に感じた、すぅーっと心を吹き抜けていく隙間風が再び流れていく。

 これ以上深く何かを考えてはいけない気がして、通りを行き交う人の人間ウォッチングで気を紛らわせた。


「食事をして帰ろうと思うが、予定は大丈夫か」


 新宿を出てしばらくして、沈黙が続いていた車内で桜坂社長がそう口を開く。

 窓の外を見ていた顔を振り向かせると、ちょうど信号で停車をしたタイミングで桜坂社長も私へと視線を寄越した。


「あ、はい。特に何もないです」


 返答すると、また車内には静かな時間が流れ始める。

 少しづつ日が落ちてきた街の景色をぼんやり眺めながら、微かに襲ってきた睡魔とうつらうつら戦っていた。

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