前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい

“おねえさま”は本当に嫌な奴だった。普段は僕に関心なんてないくせに、エレーヌを部屋に呼ぶ時だけ、僕を抱いて頭を撫でる。触り方も何もかもなっちゃいない。

本当は、エレーヌに撫でて欲しいけど、“おねえさま”は絶対に僕をエレーヌに触らせない。“おねえさま”はどこまでも性格が悪らしい。


ある日、“おねえさま”が寝た後、窓が少しだけ空いているのに気が付いた。僕は我慢できなくて、窓から外へと出た。

そして、懐かしい部屋の窓の前まで行くと、つめでカリカリとひっかいた。


するとすぐに窓が開いた。


「エル！」

僕は、僕の本当の飼い主のエレーヌの腕の中に飛び込んだ。もちろんエレーヌはちゃんと僕を受け止めてくれる。そして、僕を優しく撫でた。

懐かしい手つきに、思わず喉がゴロゴロとなる。

「会いに来てくれたの？」


そうだよ。僕が顔を擦り付けると、エレーヌは嬉しそうに笑った。


しばらくエレーヌの腕の中を堪能した後、僕は腕の中から飛び出した。窓際に飛び乗る。

「もう行っちゃうの？」


エレーヌの声は寂しそうだ。僕も寂しいよ。

でも、バレたらエレーヌがいじめられるだろ？知ってるんだ。この家の人間はみんな“おねえさま”に甘い。

頭がおかしいんじゃないかと思う。“おねえさま”はベットからめったに出ないけど。健康なんだよ。だってあいつからは死の匂いはしないもん。

ごめんね。エレーヌ。もしも僕が人間だったら、どんなことがあってもエレーヌの味方なのに。


僕は、重たい体を引きずるように偽りの飼い主のもとへ行く。