戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「失礼します。篠塚部長、ご無沙汰しております」
そして、伝言通り、資料を主任に預けたその足で、部長室へやってきた。
主任とは業務のフロアが同じだし、直属の上司だから毎日顔を合わせるけれど、部長クラスとなればそうはいかない。
部長と社内でこうして顔を合わせるのは、4月の新人配属の任命式のとき以来だ。
「おお、北川さん。忙しいところ呼び出して、すまないね」
「いえ、ちょうど業務もひと段落ついたところでしたので、問題ありません」
そうか、そうかと、笑って応えてくれる部長の様子から、悪い話で呼び出されたわけじゃなさそうだと察した。
「いきなりで恐縮ですが、今日はどのようなご用件で?」
「ああ、そうだった。君を呼んだのは外でもない。北川さんに折り行って頼みたいことがあってだな」
そう言いながら、部長は自分のデスクの引き出しを開けて、ガサゴソと何かを探しはじめた。
「コレを見てくれ。」
「…拝見します」
葉書サイズの二つ折りの紙を渡され、そっと開いた。
そこには、目を疑いたくなる、お見合いの文字。
今週の土曜という日程とともに、お見合いが開かれる老舗料亭と地図まで丁寧にプリントされていた。
「あの、部長…失礼を承知で申しますが…、一体コレは…」
わざわざ丁寧に聞かなくても、部長の返事は察していたが、聞かずにはいられない。
「見てわからないかね?お見合いだよ」
「誰の」
「もちろん、北川さん、君の縁談だ」
「そんな、まさか」
私が、お見合い?
できることなら今すぐに気を失って、何もかも忘れたい気分だった。
そもそも、部長と私は上司と部下の関係だけで、こんな私情の混み合った話なんてする間柄でもないのに。
「私の趣味は、縁談の仲介でね。先方から、直々に北川さんへ縁談を申し込まれたんだ」
部長の趣味が、他人様の恋愛事情に首を突っ込むことなんて、どうでもいい。
なんで、私にお見合い話なんてものが舞い込んでくるのかが問題だ。
「先方って、どなたなんですか?」
部長から渡された紙を持つ両手が震えるのを感じながら、状況整理のため、部長から情報を聞き取る必要があると、心の動揺を抑えるのに必死だった。