戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「神田商事の社長の息子さんだ。一度、北川さんを社内で見かけたことがあるらしい。先方の一目惚れだそうだよ」
神田商事?
確かに、神田商事とは取引あるけど、社長ご子息と顔を合わせた記憶は一切ない。
それに私は人事部だし、営業職みたいに他会社と顔を合わせる機会なんて滅多にないはずだけど。
どうもひっかかる内容に顔を潜める私をよそに、部長は雄弁さを増して縁談について話し出した。
「北川さんは社内で評判も良いし、私生活も問題なさそうだから、是非にとお答えしたんだ」
「そんなっ、部長!私、お見合いなんて…」
縁談話を頼まれるくらいなら、業務のミスを怒られたり、膨大な業務を頼まれた方がよっぽどマシだ。
社内でよくある社員から告白される程度のことなら、難なく断りを入れられるけれど、今回の縁談話は程度が違う。
部長の体裁だってあるし、相手は会社の取引先だ。
粗相は一切出来ないし、断りを入れるのだって気を遣う。
「もしかして、北川さんには将来を誓い合う彼でもいるのかね?」
「え?」
戸惑いを隠せない私の様子を見て、何を勘違いしたのか、部長はトンチンカンなことを言い出した。
その言葉に、咄嗟に村雨くんが脳内に浮かび上がってしまった私も、どうかしてる。
村雨くんは違う!何を思い出してるの、私ってば!
「そ、そんな人はいません!」
「なら良いじゃないか」
「いえ、そうではなくて、部長!」
脳内から村雨くんを追い払う勢いで正直に答えてしまったのがいけなかった。
目の前に座っている部長は、とても満足顔だ。
いかにも、私に特定の男がいないとわかって、この縁談に希望を持っている様子が窺える。
コレはまずい、丸め込まれる…!
「北川さん。見合いっていったって、ただ食事をするだけだ。確かに私は2人の仲介役を担うが、2人の顔合わせの日に私は行かないんだ」
「え…部長、いらっしゃらないんですか?」
てっきり、私の想像するお見合いは、部長と先方の社長や御子息を含めた4人で行われるものと思っていただけに、急に拍子抜けした。