戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「お待ちしておりました、北川さま」
お見合い当日
篠塚部長から伝えられた縁談が決まってから、あっという間にこの日が来てしまった。
老舗料亭だからTPOを考えれば着物で赴くのがベストだったのだが、さすがに準備する余裕もなく、家にある最もフォーマルのロングワンピを身に纏い、軽めの羽織り物をして見合い会場までやってきた。
料亭の入り口で、女将さんが美しい所作でお辞儀をした瞬間、緊張の汗が背中を伝うのを感じた。
こんな格式高い場所、小娘が1人でやってくるなんて、とんだ場違いだわ…。
「ささ、お上がりください。履き物はこちらでしまいますので、お気になさらず。荷物もお預かりいたします」
「はぁ…丁寧に、ありがとうございます」
いかにも日本屋敷のような造りに圧巻されている私の反応など気に留めず、粛々と対応してくれる女将さん。
ヒールを脱ぎ、玄関先の小上がりを登り、食事処まで案内してくれるという女将さんの後を追った。
「すでに神田さまはご到着されておりますよ」
約束の時間まであと15分もあるというのに、もういらっしゃるの?!
先方より先に到着して、最後の一息をつこうと思っていた私のささやかな戦略がいとも簡単に覆されて、心の中でうろたえた。