戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「神田さま。北川さまをお連れいたしました」
女将さんの品の良くもはっきりとした声に、自然と背中がしゃんとする。
失礼いたします、という女将さんの号令とともに、先方がいらっしゃるという部屋の襖が開けられた。
先ほどまで私の一歩先を歩いていた女将さんが、襖が開けられたと同時に私の後ろへ周り、綺麗な所作でお辞儀をしている。
急に目の前が開かれ戸惑う私に、女将さんから「どうぞごゆっくりなさいませ」の一言で、中に入るように促されてしまった。
覚悟決めろってことよね…。
篠塚部長に伝えたとおり、今日は美味しいご飯を食べるだけ!
それだけよ!と心の中で意気込み、先方がいる部屋に一歩足を踏み入れた。
「はじめまして。私、北川 彩葉と申しま…」
部屋に入ってすぐに頭を下げたので、一瞬で気づけなかった。
「どうも。北川サン」
「む、らさめ…くん?」
アンティーク調のローテーブルの奥に座る男性の正体に驚き立ち尽くす私の背後で、ゆっくりと襖が閉じられる音がやけに大きく室内に響き渡った。