戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「いっちゃんに、たまには実家にも顔出しなさいって伝えて〜」
「ええ、必ず。では、失礼します」
村雨くんが電話を代わって10分後。
村雨くんに話を聞いてもらって上機嫌になったのか、娘への小言を残して通話を切った母。
外面だけは良い村雨くんも、すっかり懐柔されている母にも、何だか気に食わない気がして、私はどちらかというとご機嫌ななめ。
「そんな可愛くむくれても、結婚は取り消さないぞ」
「なっ…」
私、これでも一応、機嫌悪い雰囲気出してるんですけど…!
私の小さな抵抗は、どうやら村雨くんには逆効果のようで、彼はなんだか上機嫌のようだ。
「どうだ。わかっただろ?俺と彩葉は、結婚に向けたレールの上にいること」
「っ…村雨くんが、とんでもない策士だということは、十分理解したわ」
「ははっ…さすが、俺の見込んだ女だ。神田の名を語っても俺にたてつくのは、彩葉くらいしかいないな」
さっきから、私のこと”アンタ”じゃなくて、”彩葉”に代わってるし…。
皮肉を言っても、この男には何のダメージも与えられないようで、空笑いで交わせられる。
悔しい。
その一言に尽きる。
これまでの状況展開、全てがこの村雨くんの意のままな気がしてならないからだ。
私の気持ちや意志なんて全スルー。
「どんなに外堀を埋めたところで、私はそう簡単に婚姻届に署名しないわよ」
「ふーん。やっぱな」
「え?」
結婚の手続きに本人の署名は必須。
その紙切れ一枚で結婚できるなら、その紙切れに私が署名しなければ良い話。
最後の切り札ともいえるワードを口に出したのに、隣の村雨くんは平然と口角を上げるだけ。
むしろ、抵抗ばかりする私の反応を楽しんでいるかのようにも見える。