マリンブルーの囁き
ベッドに寝そべっていた夏向は上半身を起こして漫画を伏せて置くと、顔を上げた。
「…やめとけよ」
私をじっと見据える眼差しは強く、耳に届いた声は少しの揺るぎもなかった。
「…あの人、いい噂聞かない」
…そんなの、知ってる。
先輩にはいつも色んな噂が付き纏っていた。
女癖が悪いだとか、他校の可愛いと評判の子はだいたい手を出しているだとか、身体だけの関係の人が何人もいるだとか。
色んな意味で有名な先輩と、男に対しての免疫が皆無な私が一緒に出掛けるだなんて、心配して当たり前だ。
だけど、私は少しでも先輩に近づきたくて仕方なかった。
ただの後輩のひとりとしてでいい。別に私を好きになってもらおうだなんて思っていない。
ただ、一度でいいから肩を並べて歩いてみたかった。