マリンブルーの囁き
「大丈夫だよ。映画に行くだけだから」
明るい声でそう言った私は、決して無理をしていたわけじゃない。
むしろ私は、その土曜日を待ち侘びていた。
「……瑠璃《るり》」
心配しないでという意味を込めて纏った笑顔も、夏向には通用しないらしい。
私の名前を呼ぶその声は、いつもよりも低かった。
「瑠璃にあの人が手に負えるわけない」
なんでそんなことを言うのって、叫びたかった。
少なくとも夏向よりも私の方が先輩のことを知っている。
何も知らないくせにって、そう詰め寄りたかった。
なのに、そうできなかったのはきっと夏向が言った言葉を私が一番自覚していたからだと思う。
「絶対に、瑠璃が傷つくことになる」
きっと心の何処かで、私もそう思っていたんだと思う。