一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~

思わず実花子が呼び止めると、ポカンとした顔で振り返った。実花子の存在はすっかり頭からなくなっていたような表情にも見える。


「ありがとうございました」


自分がお礼を言うのも変な気はしたが、木に登らずに済んだのなら良かっただろう。一応このあとにお見合いが控えているのだから。
木登りでスーツが破れないとも、自分の体力を過信して無様に落ちないとも限らない。断ろうとしているお見合いとはいえ、形だけは整えておくのが筋だろうから。
実花子にも、そのくらいの女心はあるのだ。


「女性なんだから、木登りはするものじゃないよ」
「……はい」


女性扱いをされるのは何年ぶりだろうか。飲みっぷりも食べっぷりも男性顔負けだと言われるが、女性だと認識されることはめったにない。
女性らしいと言われたわけでもないのに、普通なら大したこともないセリフが実花子の心をくすぐった。


「それじゃ、急ぐから失礼するよ」


軽く右手を上げてヒラリと振ると、男性は背を向けて足早に去っていった。
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