一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~
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「意識不明だったとは思えない感じだね」
「うん。たしか、胸をひと突きされたって言ってたよね」
そんな会話を耳にしたのは、実花子が会社のトイレの個室に入っているときのことだった。たった今、拓海の姿を見てきたような話しぶりに、慌てて個室から飛び出す。
今まさにトイレに入ってきたばかりのふたりは、実花子を見て「あっ」と目を見開いた。噂話を当事者に近い人に聞かれてしまった罰の悪さが窺える。
「椎名社長、来てるんですか?」
「あ、うん……。ね?」
ふたりが顔を見合わせてうなずき合う。その目に戸惑いの色が見えた。
多分そこには〝婚約者なのに知らないんだ〟というニュアンスのものが込められているに違いない。でも、そんなことに今は構っていられない。
「ありがとうございます」
慌てて手を洗い、トイレを飛び出した。
出社するなら、ひとこと教えてくれればいいのに。