一夜の艶事からお見合い夫婦営みます~極上社長の強引な求婚宣言~

少しだけ感じる苛立ちも、拓海の顔を見ればきっと吹き飛んでしまうだろう。

拓海がいるであろう部屋を足早に目指す。しかし、それが視界に入ったところで、実花子は否応なく足止めを食らった。
ガラス張りの壁は、ブラインドが開けられた状態。拓海は、その中にたしかにいた。
ただし、真里亜の肩に手を置き、寄り添うような状態で。

多分、拓海の無事な姿を見て泣きじゃくっている真里亜を宥めているのだろう。

そんな光景を目の当たりにして、実花子はそれ以上足を進めることができない。

秘書にそこまでする必要があるの? いくら心配を掛けたからといって、泣いているからといって、優しく肩を抱かなくてもいいじゃない。どうして、真っ先に行くところが、私じゃなく彼女なの?

真里亜の秘めた思いを知っているせいで、真っ黒い感情が込み上げてくる。胸の奥をギュッと握り潰されたような痛みを感じ、ふたりから目を反らした。

多分それは、真里亜同様に実花子の思いが一方通行だからだ。これが思い合う間柄だったら、もう少し違う感情で見ただろう。

呆然と立ち尽くしている実花子と拓海との間を行き来する周りの視線に、その時はじめて気がついた。可哀想なものを見るような視線だった。

IT界の寵児と言われるような人の婚約者が冴えない実花子なのは、エリートのジョークのひとつだったのではないか。そんな憐みの込められた目だった。

そこから猛烈に逃げだしたくなる。拓海たちの姿も、これ以上見ていられない。

ふたりに背を向けて、実花子はその場から立ち去ることを選んだ。
< 198 / 411 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop