秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~
ひとり歩き出した私を、沙季が本音を叫びながらムキになって追いかけてくる。なんだかその様子が面白くて、密かに口元にえみを浮かべながら歩くスピードをさらにあげたのだった。
公園を抜けて通りの先に見えてくる二十階建てのビルは、ヒルマ物産。自動車用品をメインに、工業用品にオートガス、保険代理業から旅行業などなど、幅広く手がけている会社である。
社員数は六千人、グループ会社と合わせたら単位は桁がひとつ多くなる。日本有数の大企業として名の知れたその会社の総務部で、私は働いているのだ。
スマホで時刻を確認しながら一気にヒルマ物産の中へと足を踏み入れる。セキュリティを通り、人の流れに乗ってエレベーターへと進んでいく。
「お願いだってば! 合コンに参加して!」
社内でも沙季の声のボリュームは落ちない。彼女の声がフロアに響き、周りの社員が何事かと私たちに目を向ける。
突き刺さる視線に恥ずかしくなり、私は唇に人差し指を当てて「声大きいから!」と注意した。
そんな時、ざわりと人々の間にざわめきが走ったのを肌で感じ取る。顔を向けると、すぐにそのざわめきの中心にいる人物を見つけ、自然と足が止まった。