秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~
「わぁ。副社長だ」
立ち止まったのは沙季も同じで、横目で見るとやはり彼女も彼を見ていた。
社長を始め、副社長の部屋がある上層階専用のエレベーターの方から、秘書を従え颯爽とした足取りで、ひとりの男性がこちらに向かって歩いてくる。
百八十センチのすらりと細身の長身に、艶やかな黒髪。前髪は少し目にかかるくらいで、くっきり二重の精悍な顔立ち。
立ち止まったり歩調を緩めたりする周囲から熱い視線が注がれているというのに、それを気に止める様子は彼にまったくない。にこりと笑みを浮かべることなく真っ直ぐ前を見つめる表情は凛としていて、それでいて冷たくも見える。
彼は蛭間翔悟。三十四歳。ヒルマ物産社長の息子であり、本人も二年前に副社長に就任した。
一秒前まで医者との合コンのことしか頭になかった沙季、そして周りの、特に女性社員たちもみな一様に、彼に目を奪われている。
私も例外ではない。トクリと胸を高鳴らせて彼を見つめる。
蛭間副社長が、斜め後ろについて歩いている秘書に声をかけられ、少しばかり後方に気を取られた。
短く何か言葉を発したあと前方へ視線を戻したその時、ちょうど彼が私のそばを通り過ぎようとする。