秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~
互いに砕けた口調で笑いあってから、連れ立って出て行く二つの後ろ姿を黙って見送る。
その後も同じ課の仲間たちから「お先に」とか「頑張ってね」と同情の含まれた顔で何度か声をかけられその度微笑み返したけれど、今日の残業は全く苦にならなかった。
これがあったから沙季が私の参加を諦めてくれたと言ってもいいため、内心で助かったと大きく安堵していたからだ。
もくもくと仕事をこなし、一時間ほどでなんとか終えることができた。
両手を伸ばし凝りをほぐしつつ、私は自分のデスクを離れた。通路奥にある総務課のロッカールームは人の姿もなく静けさに包まれていて、ロッカーの解錠や戸を開ける音がやけにはっきりと響く。
いつもは賑やかなこの場所がひどくひっそりとしているからか、妙に心細くなる。しかし、スマホに彼からのメッセージがあるのに気づいた途端、そんな心細さは綺麗に吹き飛んでいった。
『今夜、いつもの場所に行かないか?』
翔悟さんからのお誘いに、自然と笑みが浮かぶ。
嬉しくてたまらなくて、メッセージを繰り返し読み返していると、ドアの向こうから女性の話し声や笑い声が聞こえてきた。