秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~

嬉しさで声が詰まった。「私も翔悟さんに会いたい」、そのたったひと言が言い出せない。


「穂乃果、どうかしたのか?」


黙ってしまったからか、彼が不思議そうに問いかけてくる。思わず「助けて」と言いかけたが、電話の向こうから聞こえたもうひとつの声に、時が止まった。


「翔悟君、そろそろ時間よ」


彼に気安く声をかけたのは女性。それに翔悟さんも、「あぁ、分かった。今行く」と返事をした。


「俺からかけておいて、すまない。また後で連絡する」

「……わかりました。お仕事、頑張ってください」


胸の苦しさから逃げるように、私はすぐに通話を切った。呆然とした眼差しを、ずっと玄関に立っていた秘書の女性へと向け、真実を問う。


「翔悟さんは出張ですよね」

「はい」

「ひとりではないんですか?」

「今回の商談はヤブウチホールディングスとも関係があるようで、そちらからは藪内様が同行されているようです」


淡々と告げられ、脳裏に昨日見た光景が鮮やかに蘇る。食事をして、そのまま一緒に出張に行ったのかと理解し、気落ちする。

女性とふたりっきりというシチュエーションに焼きもちはやいている。けれど、翔悟さんは真面目なひとだから、浮気をしているとかそんな風に疑ってはいない。

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