秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~
女性秘書は困ったように息をつき、言い辛そうに続けた。
「近日中に副社長と薮内様の婚約が公になる予定です。その妨げとならないよう、しばらくは電話のやり取りを含め副社長とは接触しないでいただきたいのです。今すぐお約束いていただけないのなら……、明日、こちらで用意した家に移っていただくことになります」
婚約。その言葉の衝撃に、息を飲む。このまま翔悟さんと会えなくなるのではと怖くなり、自分で自分を抱きしめた。
「会長は、先代が残された会社を守りたくて必死なのです。薮内様との婚姻で社長となった後の基盤が盤石なものなります。副社長の未来のためにどうか分かってください」
代わりのように、女性秘書が深く頭を下げてきた。私は何も言えないまま彼女から目を逸らした。
「……それでは、私は外で待機しておりますので準備をお願いします」
彼女はそれだけ告げて、外へと出て行った。ぱたりとドアが閉まった音に、静寂が続く。私は小さくため息をついた。
支度を整えて家を出て、待っていた秘書と共に車に乗り込み、私はヒルマ物産へと向かった。もう就業開始時刻は過ぎていたため、ひと気のあまりないエントランスを進み、入ったことのない会議室へと通された。