秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~
だだっ広い室内には、姿勢正しく立っている秘書室長の大塚さんと、微妙に距離を置いて複雑な面持ちの部長が椅子に座っていた。そして、大塚さんの傍には私の荷物がまとめられた大きな箱が置かれていた。
事務的に退職願は受理され、部長と別れの挨拶もろくに出来ぬまま、私は会議室を出ることになる。
荷物を車まで運んでくれた大塚さんにお礼を言ってから、私は車に乗り込んだ。当たり前のように女性秘書が隣に座り、一言も発することなく家に到着する。すると今度は運転手さんが荷物を玄関先まで運んでくれた。
「それではまた」と女性秘書の言葉を無表情で受け止め、私は薄暗い部屋の中へと戻る。ベッドに腰掛けると同時に虚しさが胸に迫ってきて、ただ静かに涙を流した。
翌朝も気怠い目覚めだった。
昨晩は不安と期待が入り混じりながらも、翔悟さんから連絡が来るかもと待っていたのだけれど結局なにもなく、それは亜裕子さんとずっと一緒だったからじゃないかと後ろ向きな気持ちになる。
沙季から届いた「突然辞めるなんてどうしたのよ!」というメッセージに、どう返事をすべきかを悩んでいるうちにあっという間に時が過ぎていく。午後二時になった頃、やっぱりこのままでは行けないと、私は覚悟の気持ちと共にベッドで横になっていた体を起こした。