秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~

咄嗟に頭に浮かんだのは女性秘書の顔。もしかしたら私が家にいないのに気づいて、電話をかけてきたのかもしれない。笑みを強張らせながら、私はそっとスマホをバッグの中に戻した。

のんびり歩きたくなるくらい過ごしやすい陽気なのに、気持ちが落ち着かなくて電車を降りた後はさらに急ぎ足になる。

しかし、翔悟さんが亜裕子さんと入っていったレストランに差し掛かったところで、私は急停止した。こちらに顔を向けて路肩に停まっている車から降りてきた女性に気がついた瞬間、ゆっくり足が後退し、店先の低木の影に身を隠す。


「私もすぐに行くから、それじゃあ翔悟君、また後でね」


それは翔悟さんの車だった。彼女は運転席の彼へと手を降ってから、私の目の前を横切って、通り沿いにあるマンションへと入っていく。

彼はすぐに車を発進させ、自分のマンションとは違う方向へと走り去った。

私は目にした現実を受け入れられず呆然とする。彼女の言葉が聞こえなかったら、出張から戻って、ただ彼女を家に届けただけと思えるのに、「また後でね」という約束の言葉が胸に深く突き刺さる。

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