秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~
「いえ。自分で帰ります。のんびり帰るので少し待っていてください」
私のお願いに今度は女性秘書が数秒無音になり、「わかりました。お気をつけて」と囁くように返答したのち、通話は切られた。
持っていたカードキーとスマホを共にバッグの中へ戻し、私は気怠く歩き出す。翔悟さんとぶつかるのではなく、離れることを選択してしまった。臆病な自分が情けない。
彼との思い出が、頭の中に去来する。彼と過ごした時間はどれも温かく、涙がこみ上げてくる。
俯き加減で駅まで戻ってきた時、再びスマホが振動していることに気がついた。手に取ると同時に、それが翔悟さんからの着信だと分かり、顔が強張る。彼からの電話を、初めて怖いと感じた。
それでも、これが彼の声を聞く最後になるかもしれないと、私は勇気を振り絞る。
「……はい」
「穂乃果!」
絞り出した私の小さな声と翔悟さんの凛とした声が被った。
「どういうことだ。どうして会社にいない」
「……誰かにお聞きになりませんでしたか? 私、ヒルマ物産を辞めたんです」
「辞めさせられたの間違いじゃないのか?」
鋭く言い返され、声が詰まった。生まれた沈黙が重くのしかかってくる。