お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「本当にうまいな。疲れを忘れる」
「拓海って、日本酒も好きだったんだね。私は全然知らなかった」
「そうだっけ?」
拓海はなんでもないことのように言っているけれど、なぜだか私はショックを受けていた。
妻である私は、彼にとって一番近い存在であるはずなのに。幼い頃から長い時間を過ごしてきた佐奈さんの方が、拓海のことをたくさん知っている。
「夏美、食べないの?」
「食べるよ。……拓海、なんだか今日は機嫌がいいね」
「酒も料理も美味いからな」
本当に、それだけ? 久しぶりに佐奈さんに会えたからじゃないの?
鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌の拓海を、いつの間にか疑いの目で見てしまう自分がいる。
「それに」と拓海は一度箸を置くと、日本酒の入ったグラスを手に取った。
「佐奈は子どもの頃からずっと、兄貴のことが好きだったんだ。それを親の勝手で俺と結婚させられそうになって」
「佐奈さんから聞いたよ。すごいね……そんなに長い間一人の人を想っていられるなんて」
「そうだな……」
グラスを口に当て、拓海が遠くを見るような表情をしている。
「……よかったよ、一番好きな人と結婚できることになって。本当によかった……」
そんな拓海のようすを見ていて、欠けていたパズルの最後のピースがカチリとはまった気がした。