お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

 『意に沿わない結婚』だったのは、拓海にとってではなく、佐奈さんにとって。

 佐奈さんは、拓海が子猫の頃から飼っているこはるに懐かれるくらい、この部屋にも出入りしていた。

 佐奈さんはきっと、子どもの頃から遊びに来ている感覚で、ここを訪れていたのだろう。そして、持ちかけられた縁談や湊人さんのことなんかを、拓海に相談していたのかもしれない。


 たぶん拓海は、ずっと湊人さんのことを想ってきた佐奈さんのために、私と結婚をすることを選び、身を引いたのだろう。

 そんな強引な手段に出たのも、なんとかしてご両親の目を、自分から湊人さんに向けさせるためだったんじゃないのかな。


『俺さ、自分が好きな人からは全く恋愛対象として見られないんだよな』

 プロポーズされたとき、拓海はそう言っていた。きっとあれは、湊人さんに夢中で拓海の想いに気がつかない佐奈さんのことだったんだ。

 拓海がそこまでする理由は一つ。佐奈さんのことを好きだから。

だから彼女が幸せになることだけを考えて、拓海は自ら身を引いたのだ。


 どうしよう。胸が張り裂けそうなほど苦しい。閉じ込めていた涙が膨らんで、今にもこぼれそうだ。


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