お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

「酔った?」

「え」

「夏美、さっきからボーっとしてる」

 拓海が心配そうな顔で覗き込んでくる。彼と目が合ったとたん、私の中から愛しさが溢れ出してきた。

 ああ、私はどうしても拓海のことが好きだ。

 私はなんて、報われない恋をしてしまったのだろう。しかもその相手と、もう結婚しているだなんて。

 拓海は好きな人の幸せのために身を引いた。それに比べて私は……自分が拓海といたいからって、拓海の優しさに甘えてずっとここに居ようとしてる。

 拓海の佐奈さんへの大きな愛情を目の前に、今の自分がちっぽけに思えて仕方がない。

 佐奈さんはもう結婚してしまうけれど、これから先、拓海にも本当に好きな人が出てくるかもしれない。このままじゃ、いずれ私が拓海の幸せを阻む存在になってしまう……?

 膨らんだ涙が、目の端で大きな粒を作る。せっかく気持ちよくお酒を飲んでる拓海に、こんな顔は見せたくない。

「ちょっと、酔っちゃったかも。具合悪いから先に寝るね。拓海はゆっくりして」

「一人で大丈夫か?」

 二人でいるのに、気持ちはお互いを向いていないのだ。わかっていて同意した結婚だったけれど、こんなにつらいなんて。

 湊人さんと佐奈さんの結婚が決まったいま、この結婚を続けることに意味なんてあるのかな……。


「平気だよ。おやすみなさい」

 それ以上拓海の顔は見られないまま、私は自分の部屋に引っ込んだ。


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