お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~

 久しぶりに、綾さんと飲みに出た。いつも誘ってもらうことが多かったけれど、今夜は私から声をかけたのだ。だって一人で拓海の帰りを待つことも、帰って来た拓海と顔を合わせることもどちらもつらい……。


 賑やかな週末の居酒屋は、仕事帰りのサラリーマンやOLでごった返している。

「なあに、そんなに暗い顔して。祖父江さんとなにかあったの?」

 オーダーしたビールとお通しが届くやいなや、綾さんが訊いてきた。

 私たちの結婚の真相は、誰にも伏せてきたことだ。でも、これ以上自分の気もちをごまかしたまま、抱えていられそうになかった。

「綾さん、絶対に他言はしないと約束してくれますか?」

「なに? もったいぶって」

 綾さんは、私が半分ふざけているとでも思ったのかもしれない。

「約束してくれますか?」

 さっきより私の声が重く、真剣味を増しているのがわかったのだろう。綾さんは眉をしかめた後、「……わかった。約束するわ」と頷いてくれた。


「綾さん、私と拓海のことまさか本当に結婚するとは思わなかったって言いましたよね?」

「ああ、そんなこと言ったかもね……」

 はっきりとは覚えてないのだろう、綾さんはうーんと考えこむような仕草をしたあと、あやふやな物言いをした。

「綾さんがそう思ったのも無理ないと思います。私たち実は、契約結婚ってやつなんです」

「……は?」

 綾さんは今まさに飲もうとしていたビールのジョッキを置くと、思いきり眉をしかめた。


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