お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
「ねえ夏美さん、拓海のうちの猫ちゃんは、懐いてくれました?」
急になにを言い出すのだろう? びっくりして目を丸くしつつも、「いえ、それがなかなか……」と佐奈さんに向かって首を振る。
「あら、そうなのね」
茶目っ気たっぷりに微笑むと、佐奈さんは私の腕を引いた。二人から少し離れた場所で、私の耳に片手をあてる。
「このあとおうちに帰ったら、あの子のこと『こなつ』って呼んでみて。きっと態度が変わると思うから」
「……こなつ?」
私が言うと、佐奈さんがコクコクとうなづく。どう意味だろう?
「どうしてこなつ? こはるじゃないんですか?」
私が訊いてみても、佐奈さんは変わらず微笑んでいるだけで、答えようとしてくれない。
「さっ湊人さん、そろそろ行きましょうか」
「そうだな」
控室の時計を見ると、二次会の開始時刻が迫っていた。
「夏美さん、新婚旅行のお土産買ってくるから、楽しみにしていてくださいね」
「わ、嬉しい! ありがとうございます」
新婚旅行は、佐奈さんたっての希望で、少し時間をかけてヨーロッパを周遊してくるという。湊人さん、よくスケジュールの調整ができたな、と思ったけれど、結局のところ、湊人さんは佐奈さんには逆らえないらしい。
それだけ、佐奈さんのことが可愛くて仕方ないってことなんだろう。