その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
広沢くんが、しばらく沈黙する。
だけど私の気持ちは伝えられたから、もう充分に思えた。
「遅くにごめんなさい。じゃぁ……」
穏やかな気持ちで通話を切ろうとした私のそばを、バイクが一台通り過ぎていく。
「待って、れーこさん。今、外?」
広沢くんの声に呼び止められて、通話終了ボタンを押すのを思いとどまった。
このまま通話しながら帰ってもいいか、と思いながら薄らと口端を引き上げる。
「そう。今から帰るところで……」
「どこ?れーこさんちの近く?」
「あ、えーっと……」
今あなたのマンションの前にいます、なんて。この流れで言うのは恥ずかしすぎる。
「今、どこ?」
だけど何度も問い詰めてくる広沢くんに嘘を突き通せなくて。
「今、広沢くんのマンションの前……」
恥を偲んで小さな声で白状したら、電話の向こうでガタンと大きな音がした。