その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―


企画部長が私のデスクから去って行くと、周りでこちらの様子を窺っていた同僚たちが入れ替わり立ち替わり私のところにやってきた。


「碓氷さん、お疲れさまです。今までありがとうございました」

「寂しいです……」

そんなふうに私を労ってくれる同僚たちの言葉がどこまで本心かわからないけれど。最後に気遣いの言葉をかけてもらえるだけで、とても嬉しい。

桐谷くんと一緒に私に挨拶しに来てくれた新城さんの涙は嘘っぽかったけど。

秋元くんと一緒に挨拶しに来てくれた菅野さんの「寂しい」という涙は、たぶん本物だったと思う。

彼らのこれからの成長をそばで見守らないのは残念だけれど、きっと私がいなくなっても、みんな頑張ってくれるだろう。


「碓氷さん」

総務に自宅に郵送してもらう段ボール箱を預けて戻ってきたとき、まだ挨拶を済ませていなかった秦野さんがおずおずと歩み寄ってきた。


「お疲れさま」

最後だと思ってにこやかに笑い返すと、秦野さんが私になにかを差し出してきた。


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