その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
ケーキの箱を持ってリビングのほうに先に歩き出したれーこさんが、振り返る。
あとからついて歩いていた俺は、立ち止まったれーこさんに手を伸ばすと背中から彼女を抱きしめた。
「律?」
腕の中にぎゅっと閉じ込めて、首筋に額を摺り寄せると、れーこさんが困ったように俺を呼ぶ。
何度呼ばれても、何年経ってもその声は心地良くて。心を捕らえて離さない。
「どうしたの?」
「んー。これからしばらくは、れーこさんが毎日『おかえり』って言ってくれるんだなーと思ったら嬉しくて」
「これまでもそうだったでしょ?」
「でも、れーこさんのほうが仕事で遅いときもあったじゃん」
「たまにでしょ?」
「たまに、だけど」
「不満だったの?」
身体ごと振り向いたれーこさんが、綺麗な顔で上目遣いにじっと見上げてくる。
その目はまるで、初耳だとでも言いたげだ。
「ちょっとだけ」
不貞腐れた声でつぶやいて、目を逸らす。