その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「あ、ちょっと……」
戸惑い気味に振り向く秦野さんのことを誰も引き留めない。
もちろん、私も引き留められない。
しばらく躊躇っていた秦野さんだったけれど、結局菅野さんに無理やり押されて広沢くんに近いテーブルに移動してしまった。
「秦野さんと広沢さん、美男美女でお似合いですよね」
秦野さんを広沢くんの近くに無理やり押し込んでから戻ってきた菅野さんが、元々秦野さんが座っていた秋元くんの隣の席に腰掛ける。
にやけながら自分のグラスをテーブルに置く菅野さんに、私は黙って苦笑いで応える。
秦野さんが広沢くんの近くに来たことで、その周囲はなんだか冷やかしのような歓声が起きていた。
後ろ姿しか見えない秦野さんの反応はわからないけれど、広沢くんが困った顔で周囲を鎮めているのがわかる。
ただの噂が、広沢くんと秦野さんを会社の公認カップルみたいにしているのかと思うと、なんだか複雑だ。