その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
新入社員の彼にこんなことで気を遣わせるなんて情けない。
ふーっと静かに息を吐いて気持ちを切り替える。
「大丈夫よ。今聞いた話を鵜呑みにしたわけでもないし、特に気にしてもないから。教えてくれてありがとう」
「碓氷さん……」
「さぁ、業務に戻りましょうか」
「碓氷さん、医務室にはちゃんと行ってくださいね」
「ありがとう。さぁ、戻りましょう」
有無を言わせない口調でそう言って、少し微笑むと、桐谷くんはそれきりもう何も言わなかった。
桐谷くんとふたりで給湯室から戻ると、並んで歩く私たちに気付いた広沢くんが僅かに眉間を寄せる。
「桐谷、始業時間過ぎてる」
「すみません」
怒ったような少し低い声で、広沢くんが桐谷くんを注意する。
それに対して、桐谷くんが何の言い訳もしようとしないからなんだか申し訳なかった。
私がコーヒーを溢したから片付けを手伝ってもらってたのに。
フォローをしようかと迷っていたら、広沢くんが無表情で私をチラッと見る。
その目を見たら、なんとなく今話しかけても悪い方向にしかことが運ばないような気がした。
またあとで話さなくちゃ。
広沢くんに気付かれないようにそっとため息を吐くと、自分のデスクに着いた。