その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



広沢くんはじっと笑顔なのに、私はなんだかそのことがとても落ち着かなかった。

きっと、その理由はこうしてランチに誘われたからだ。


業務中に彼が際どく近付いてきたり、通勤の行き帰りを合わせたことは何度かある。

昼前にミーティングがあって、その流れで他の同僚たちと交えて広沢くんとランチに行ったこともある。

だけど、こんなふうに昼休みに呼ばれてふたりだけでランチに来たのは初めてだ。

ふと、今朝給湯室で菅野さんや桐谷くんから聞いた噂のことが脳裏に過ぎる。

もしかして、その話……?


「何か、話したいことでもあった?」

食事を注文したあと、思いきって私のほうから広沢くんに訊ねたら、彼が小さく首を傾げた。


「別に。たまにはれーこさんとお昼でも食べたいなーと思って。ダメでした?」

「ダメ、ではないけど……」

そう問いかけてくる広沢くんはにこにこ笑っているのに、なんとなくその目がいつものように笑っていない気がする。

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