可愛らしさの欠片もない
これ、と見せられた物は左手だった。
「え、何を…」
テーブルの上で握られていた左手の薬指には、確かにプラチナの指輪が存在していた。それを、これ、と。……そんな…指輪?。言われてそれに目が行くまで気が付きもしなかった。浮かれ過ぎていた。ここ数日、考えもしなかった。どういうこと…奥さんが居るの?。じゃあ、どんなつもりでここに案内して来たの?…。ううん、それ以前の問題。何故、私の告白を受けたの?…はぁ?え?結婚指輪なんて…全く無防備だった。そうだ。ただ見かけて惹かれた人を、そこまでチェックしようとは思ってなかったし、薬指まで見ようともしてなかった。迂闊だった。告白する前に確かめておくべきだった。若い男ではないのだから。でもそれは無理だった。…無理でしょ。妻帯者かどうかなんてことは頭に全然なかった。だって、私の話を聞いて…それで…今に至ってるのよ?そちらに教えようという気があったら直ぐ言えてたことじゃない…。一体何を考えてるの…。何故断ってくれなかったの?
では、この人はどういうつもりで私の告白を聞いていたのか。必死に…言葉に詰まりながら言ったというのに。…考えたくもない。最低だ。今になって妻が居るなんて……つき合うって…そういうことなの?…それは無理。
「なかったことにして頂けますか?…知りませんでした。正直ショックが強すぎて。短時間で落差があり過ぎて…頭で整理がつきません。奥さんが居るって…今はそれがインパクトがありすぎて……何がなんだか……何も知らなかったことだと、告白してしまったこと、許してください。確かに惹かれました。今だってまだその真っ只中です。でもそれは…無くします。いずれ片思いだったと終わらせられます、終わらせます…すみませんでした、思いを押し付けてしまって」
無理だ。…この思いは実った途端に枯れてしまった。…はぁ。
「ちょっと、待った」
「…え?」