可愛らしさの欠片もない

「それはあんまりじゃない?こうなるきっかけを作っておいて。なしにしようなんて、勝手過ぎないか?」

え……なに言ってるのよ。随分な言い分じゃない?最初に教えもしないで…勝手なのはそっちでしょ?

「きっかけって言われても、それはそうですけど、直ぐ言わないのっておかしくないですか?無理に決まってるじゃないですか。奥さんが居るって…」

「居る」

「ほら。…あ、すみません」

言葉を選んでいる余裕はもうなかった。居るって、平然と言っている気持ちが解らなかった。何を考えてるの…そんなこと、…無理。

「まあ、聞いてよ。座って…、とにかく落ち着いて」

話を聞いた勢いで、帰るつもりで立ち上がっていた。その手を掴まれていた。どうしてこんなに呑気にというか、落ち着いていられるのだろう。不思議で堪らない。私はこんなに…さっきから同じことばかりをぐるぐる考えてるっていうのに…。この人は一体…何を考えてるんだろう。いつもこんなことをしているのだろうか。だから何でもないことみたいにしていられるのだろうか。…はぁ。そうに違いない。

「嫌です。そんな…聞く必要もないこと…」

「聞いてほしいから言ってる。誤解はしないでほしいから」

誤解?この話のどこに誤解があるの?

「誤解もなにも、しようがないです。聞いたままなら、あなたはつき合ってはいけない人ですから」

奥さんが居るんだ、これでさようならだ。その上でのつき合いなど…ない。
あぁ…なんでこの人を好きになってしまったんだろう、て、思いたくない。なのに…。はぁ。
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