可愛らしさの欠片もない
「何だか、こんな風にご飯に誘うこととか、楽になった。まあ、それはもう家庭を気にしなくていいってことがあるからなんだろうけどね。今まではさ、飲んで帰ること、まるで犯罪者みたいに言われると思うとさ、中々…開放的な気分で店にも来れなかったよね。来たのにくさくさして帰るなんて、真っ直ぐ帰るのとそう変わらないってね。時間は遅くなるけどね」
「あー、まあ、私にはどう言っていいか解らないですね、関係性のことですから」
「もう、今となってはどうでもいいことになったけど…散々言われたことも忘れたよ」
「…あ、どうなんですか?お父さん、あまり詳しくは知らないからあれですけど」
「うん、有り難う。特にはね、体が弱っていくと世話することも増えてくるのかなって、今はそんな感じだ」
「…そうですか」
何れ、床についたままになってしまうということだろうか…。
「だけど、なんていうか、辛さは感じないかな。まあ、今は本格的な介護ほどではないから言えてると思うけど」
「お待ちどう様でした…。マグロの頬肉の握りです」
「来た!わっ、美味しそう…」
「咲来さんのチョイスだよね」
「はい、ここではないけど、前に食べたことがあって、頬肉っていうけど、この部分ですよね」
自分の“エラ”の部分を触って見せた。それこそ、カマの部分だ。
「そうだったと思うよ」
「少ししかない部分だし、肉質が全然違うんですよね。歯触り?っていうか違うし。もう、とにかく美味しくて。…頂きま~す。あ、先に食べちゃった、先輩に文句言われそう」
「まだ煮付けは来てないし、それぞれ食べたい物を注文してるんだから大丈夫でしょ」
あ、帰ってきた。
「何、綺麗な赤身。お肉?」
「マグロです、マグロのここです」
頬を軽く叩いて見せた。
「私もそれ食べるわよ、……美味しそうじゃない」
わっ。やっぱりだ。居ないときに話題にするものではない。丁度帰ってきたし。
あ、忘れるところだった。甲斐さんに連絡しておかないと。
「私もちょっとお手洗いに」
「はい。もう一つ食べてから行きなさい。戻ったらないわよ?」
「え?ハハ、はい」
希少な部位の握りだもんね。あ~んしてと言われ口に入れられた。