可愛らしさの欠片もない

「中々帰って来ないから、でもアルコールは飲んでないし。化粧直しが長かったのね」

すみません。直しも何もしてません。

「ご心配かけました」

「あら…いい顔してる」

「え?」

顔を押さえた。え、何??

「フフ、正直ね、そうやって直ぐ人の言葉に惑わされちゃって。要注意よ」

そうだ。まさに掌の上で転がされてる感じ。先輩からしたら、私って凄く簡単だ。
…先輩はいくつだっけ。まだ三十代だったはず。私も先輩と同じ歳には何でもお見通しみたいになれてるかな。

「大島さんも心配してたから、戻ろうか」

「はい」

酔ってもないのに何を心配されてるのか。

「あ、私、8時くらいには帰ろうと思います」

「ん?本当は用があったの?気、遣わせちゃった?」

「いいえ、そうではないですけど。大体そのくらいにはご飯だから済みますよね」

って、なんて勝手な言い分。自己中丸出しみたいなやつじゃない。

「そうね、丁度いいくらいじゃない?まあ、時間になったら帰りなさい。大島さんとあとは飲んで帰るから」

大丈夫よって言ってくれた。

ブー。あ、甲斐さんだ。携帯は手にしたままだった。

「…え、甲斐…駿脩…」

あ、わ、大変、画面見られちゃった。

「咲来さん、駿脩と知り合いなの?」

「あ、実はですね、この人が…」

……え?今、先輩、確か駿脩って言った。漢字…、なのにとしのぶって読んだ、言った。

「あ、これは……」

後の言葉は飲み込んだ。この人がそうなんですって、言ってはいけない気がした。悪い予感だ。……どういうこと?今、確かに…名前呼びした。誰?っていう言い方じゃなかった。あぁ頭が混乱する…。知り合いは知り合いだ、間違いない。それも、……凄く親しそうだ…。
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