可愛らしさの欠片もない
「もしかして、例の人が、駿脩?」
あ、そうだけど…、なんだか、それを言ったら駄目な気がする。どう考えたって、良くないことしか起きない気がする。嫌な予感は当たるって、まさにセオリー通りな気がする。
「あ、…それは」
さっきから口ごもってる段階で認めてると同じ。違うなら否定は簡単だから。
「あっ…ちょっと、ああ、居た居た。戻って来てたんだ。様子を見に行くって言って帰って来ないし。二人とも何してたの。料理、全部来てるし、冷めちゃうよ?」
……会話はピタリと止まった。大島さん。助かった、というより、これは先伸ばしされただけって感じになった。甲斐さんのことは有耶無耶には出来ない。誤魔化してもいけない。そういう空気が漂ってる。
「咲来さん?……けんかでもしたの?」
何だか先輩との間に流れる空気が違ってるから。大島さんに気を遣わせてしまった。
「あ、はい。いいえ違いますよ。すみませんでした。あ、すみません、私、急用が入って、直ぐ帰らなくちゃいけなくなって」
「あ、そうなんだ。それじゃあ仕方ないね。じゃあ…、割勘代は明日請求ってことで。お酒沢山飲んでつり上げておくから。なんて嘘嘘。鞄、持ってるんでしょ?そのまま出なよ」
「はい、有り難うございます。では、…おやすみなさい、すみません」
通路を進み、お店の人にろくに挨拶もせず逃げるように店を出た。もうこれ以上、声をかけられたくなかった、……先輩に。
先輩は軽く手を振っていたようだ。
…はぁ、良くない。絶対良くない。聞かれたことに答えてない。明日までもやもやして、最悪…最低だ。どんな言葉が返って来ようと、堂々と言えば良かった。でも…そこに問題がある。と思えば躊躇してしまう。だからモゴモゴした、言えなかった。
………先輩と甲斐さんは一体、どんな知り合い?
ドキドキドキドキして堪らない。気が焦る…怖い。
……もう問題が?また何かあるの?