可愛らしさの欠片もない
「実妃の気持ちを知ったから、顔を合わせ辛い」
…その通りです。
「俺はなんとも思ってない。向こうだって…」
「どこか期待してるって」
「ん?」
「…先輩は……甲斐さんが結婚して、幸せを願ってるけど、私はそこら辺りの経緯は知らないですけど……諦めてないみたいです。離婚がない訳じゃないって。実際、甲斐さんは今、離婚に向かってる。それを知ってるのかどうかは知りませんが。……知ってるんでしょうね、きっと。
離婚がないこともないから、どこかで期待してるって……」
「だから?」
え?
「だから?…」
それがどうしたって?
「だから、なんだ」
「…なんだ、って…」
そう言ってたってことです…。
「あいつがどう思っていようとそれはあいつの勝手だ。…何度言えばいい。今の俺が実妃に行くとでも思ってるのか?何故そうなる」
身近な人、しかも先輩と甲斐さんが友人だなんて、……不安になってるだけ。二人共、元々私は知り合いではない。先輩のことだって会社での印象しか解らない。知らないことの方が多いから…、それだけ。
「私、まだ、甲斐さんとは、昨日今日の、そんな、何も解ってない…そんな仲で…、先輩のことを何もない、何も思ってないって言われて…、そうかもしれないけど…、そうだと思うけど、不安になるじゃないですか。友人だとしたら、尚更、色んなことを知ってる。なんの構えもしてない、自然体の甲斐さんを知ってる…」
どんな甲斐さんも知ってるんだ。それだけ近い人。…酷い嫉妬だ。
「それは仕方ないな。そういう巡り合わせだった。同じ時間を過ごして来たんだから」
解ってる、解ってるけど……どうしようもないことだって……解ってるけど。同じ時間を過ごした、……その言葉にさえ嫉妬する。
「はぁ、大人ですね。私だって…頭では解ってるんです。でも私は全然駄目です」
その親しさに入り込めないと思ってしまう。…それが嫌。…友人だと言っている相手に嫉妬してどうするって。だけど、ただの友人じゃないから。異性だから。異性として好きだという思いを持った友人だから。
「ではずっとそういう風にしてるといい。俺が友人以上何もないと言っても解ってもらえないようではどうしようもない。頭を冷やすと言ったな。気の済むまで、好きなだけ冷やすといい。…明日実妃に会ったら言うといい。甲斐さんとは止めましたからって」
…あっ。
立ち上がると玄関に向かった。短い距離だ。直ぐごとごとと靴を履く音がしてドアが開いた。閉まった。
……はぁ。何も、人物を知らないで告白して…好きならってつき合うことになって…。後悔はしないつもりで、こんな形でのつき合いを決めて、始めて…。
つき合い出してから、当たり前だけど知ることばかりで。だけどそれも仕方ない。何も知らないで告白したのだから。
どんどん情報が増えてくるのはこれからなんだけど…。甲斐さんとのこと、止めるの……?…。