可愛らしさの欠片もない

あ、どうやら左に行くようだ。私が行くのは右だけど。左に行ったからといって、真っ直ぐ目的地に向かってるとは限らない。…朝のコーヒーかもしれない。
とにかく、仮定として、ここら界隈のオフィスに勤めてるんだと思うことにした。そうなると明日も乗る可能性だってあるわけだ。
…て、あっ。わっ。戻って来た。え?どうして?来てる、来てる。…来てるってば。
わわわわ、どうしよう。歩いていたら追い越してくれるかな。
慌てて踵を返して本来行くべき方向に向かってゆっくり歩いた。はぁ……なんで急にこっちに来てるのかな。あ、まだ慣れてなくて、以前の習慣で改札を出たら左に体が向いてしまったとか。それで慌てて逆戻りしてる、とか。…解んない…あ、後ろに、来、た…。

「ふぅ…」

あっという間だ。気配を感じたと思ったら足早に追い越して行った。
正しい行き先はこっちってことだ。それとも今日はこっち。それでいつもはやっぱりあっち?
全然解らないけど、ふぅと息を吐いたのは聞こえた。でも、ちょっと…早いよ。どんどん離れて行く。私のこと、ただ追い越しただけの人ってくらいだ。これをむきになって私が追い越しでもしたら、なんだこいつは?みたいな印象くらいは残るかな。…さすがに…そこまではできない。あー、行っちゃった……。
まあ…明日、また会えるかも知れないし…会えないかも知れない。…欲をかいてはいけない。
会えただけで今日もラッキーと思わなくちゃ。何の保証もないけど、不思議なことに、これで終わり、なんて気持ちにはまたならなかった。
何故だか解らないけど、毎回、期待だけは勝手にどんどん膨らんでいく。
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