可愛らしさの欠片もない
「おはよう」
「あ、おはよう、ございます…」
ふぅ。少し早歩きで来たせいでまだ息があがっていた。さっきの出来事に、余韻に浸ってたから、ギリギリセーフだ。……汗も出ちゃって…大変。……汗拭きシート…あった。
「…ん?何かいいことでもあった?」
「…え゙?何ですか?」
いいことって、え、なんです?今はそれどころではない。一先ず息を整えないと。汗も拭き取らなきゃ。…スプレーは…っと…。
「んん?フフ。顔つきが違うみたいだから、なんとなくね?」
あ。慌てて顔を押さえた。私、知らず知らず緩んでたのかな。どんな顔をしてるの?……息の荒い顔じゃないの?…緩んでるって…高揚してる?
「あ、いえ、特には何も…」
と、言っておこう。顔を何度も押さえた。でも…よく見てる…。そんなに解りやすい顔をしてたかな。今までが何もなかったから…。やっぱり緩んでるのかな…。
何でもないふりでロッカーを開け鏡を覗き込んだ。鞄は感覚で棚になんとか置いた。あ、確かに…言われてみればだ。正確には今より前はもっと明るい表情をしていたんだと思う。自分でも解る。最近までのどんよりした表情とは違う。今の顔、目がいつもより開いている。
「そう?恋でもしてる顔だけど?…違う?」
う、あ、ゔー。どうしようか。言ってもいいけど、そんな……恋というか、どこの誰だか解らない人にドキドキしてるなんて…乙女な話は恥ずかしい…。
「あ゙、まあ、ちょっと、…実はですね……恋というか、素敵な人を見かけたってくらいのことです」
その程度で私はこんな顔をしてます。はい。
「そうなんだ。いいじゃない。彼は?いないんだっけ。あ、敢えて聞くなって?フフフ」
「あーはい、今は」
正確にはかなり、ずっとだ。…知ってるのに。
「じゃあ…、んー、いい刺激になってるのね」
てきぱきと着替えを進めている。同時進行の出来る人だ。
「そうですね。なんだかちょっと、立て続けに会ってしまって、ラッキーというか…そんな程度のことです、本当」
首の汗を拭いた。
「あ、それ。大事よ」
「え?」
「逃しちゃ駄目よ」
「え?」