可愛らしさの欠片もない

頭を冷やします、と言ってあったからかもしれない。反省文のようなメールに返信はなかった。
先輩と話をした私は、この程度の文なら送ってくるだろうと読まれているのだろう。
関係性を悪くさせない、物事を円滑にするということ。そのために、先輩はあんな風に言ってくれたんだ。甲斐さんのこと、好きなことに変わりないのに。辞めない限り同じ職場、会社の中で気まずい状態を避けるために…。

「咲来さん」

「あ、大島さん。昨日はすみませんでした」

私も大概、面の皮が厚い …咄嗟に体裁を整え、笑って見せてる。無意識に外面は気にするようだ。

「自分勝手に帰ったりして」

「え?それは大丈夫。全然、気にしないでよ」

「あ、おいくらですか、ご飯代。払います」

「えっとね、ちょっと、待ってね…」

携帯を出している。

「咲来さんは、1000円だよ」

え?その程度?

「ほら、あの握りくらいしか食べてなかったでしょ。それと飲み物だってアルコールじゃないし」

「これだと安過ぎです」

完全に割り勘ではない。

「いいよ、ほぼ実費?飲まない人にお酒の料金まで払わせるわけないさ」

「でも、それでは」

「また行こうよ。ね?久田さんも一緒に」

「あ、はい」

どこか迷っていても、先輩が一緒だと大丈夫だと返事をしてしまう。気まずくなっていたらデスクにだって座って居られなくなっていただろうし、ましてご飯になんて行けるはずもない。それが変わりない気持ちで居られてるなんて…。本当に、なんて素敵な人なんだろう。

「咲来さんが誘ってくださいよ」

「え?」

「…その…久田さんのこと」

口ごもっている。……あ、そういうことだったんだ…。

「いいですよ、解りました、任せておいてください。また行きましょうね」

目に力を込めて返事をした。

「え?ああ、うん。うん、行こう」

なんだ…私ったら…私の勘違いだったのか、もしかして大島さんは私のことを…なんて、自意識過剰にもほどがある、恥ずかしい、それで変に気を遣ってもらったりして。…なんて傲慢なことをしてたんだろう。

「あ、では…これ、本当に1000円でいいのですか?」

財布から取り出し渡した。

「勿論」

「有り難うございます」

「じゃあ」

「はい」

さすがに一緒に行こうか、とは言わない。……大島さんも用は外で。……あぁ、“誰か”に見られて誤解の噂が立たないようにするためかも。
…いいと思ってる人が居れば誤解はされたくないもんね。
私の周りに居る人達はみんな大人ばっかりなんだな…気配りができて。私が思慮が足りないってことでもある。実感させられた。気付いても自分が直ぐ大人になれるかは解らない。経験の積み重ねも必要かな…。
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