可愛らしさの欠片もない

【帰ってる?】

あ、甲斐さん!

【帰ってます】

随分前にです。

【今から行くから】

【はい、大丈夫です】

…はぁ、…良かった、連絡が来て。
えっと、そうだ、慌てて何かしないといけないことは……何もないんだった。…大丈夫。待ってるだけでいいんだ。
ご飯は?済んでますか?
そうだお風呂、お風呂、入りますか?…とか、予め聞いておいて準備しよう、とか、ないんだものね。どのくらいで来るのか聞いておけば良かった。メール、短いから、ついこっちも短くなっちゃう。


ピンポン。
わっ、びっくりした。甲斐さんだよね。
人が訪ねて来て鳴らすってこと、こんなに音が響くものだったんだ。
宅配も日中に置いていってもらってるから、何だか心臓が痛いくらい響いちゃった。
ピンポン。
あ゙、いけない、迎えに出ること忘れてたって言ったら怒られてしまう。

「ごめんなさい…」

「…シャワーだったのか?」

「え?」

そんなこと、してません。考え事をしてしまったんです。

「違います…」

「違うのか。じゃあ、…拒否か」

「違います、開けてるじゃないですか」

拒否って……どうして。私が引きずってると思ってるんだ。

「上がるぞ?」

「あ、はい、はい勿論、すみません」

断じて拒否なんかではない……急いでるな。苛っとさせてしまったからかも。
後ろをついて歩いた。
わっ、いきなり止まった。…なんだろう。
行き先を間違えたってことじゃないだろう。
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