可愛らしさの欠片もない
ちょっとした変化に、思い出して気がついた。
先輩が甲斐さんのことを名前で言わなかったこと。最初の一回こそ駿脩と呼んだ。でもその後はずっと甲斐と言っていた。甲斐さんもだ。あいつは別として、先輩のこと、実妃と呼んでいたのに、久田と言っていた。
どう考えても、二人で示し合わせたとしか思えない偶然。そう呼ぶのは止めようと、二人で決めたのだと思う。ううん、きっと甲斐さんが言ったのだろう。それを先輩が承諾した…。少なくとも私の前では。そんなことにすらやきもちを妬いてしまう私のためにだ。…子供だ。
そういうこと、あの夜のこと、話したんだと思うと……。いや、こんな風に想像して考えるのは止めなくちゃとは思ってる。いいことなんてないから。嫌な気持ちが増すだけだから。
でも、どうしても想像してしまう。
…大事な話だからって、メールでは止めようと、電話して話したと思う。最初の連絡はメールをしたかもしれない。今から電話するとか、書いて。
それとも最初から電話だった?コールされる電話を見て、一気に学生の頃に戻る。表示は『駿脩』のみ。昨日まで一緒だったみたいに会話はすんなりと進む。弾む。
……はぁ。
私は一生、こんな風に嫉妬し続けるのだろうか。遠くにいるとか、知らない人なら違っていたかもしれない、もっとマシだったかもしれない。近くて、知ってる人なんて……どんだけ世間は狭いの。これも運命なのか…。乗り越える乗り越えないで、当然、結果は違ってくる。
…はぁ。……大袈裟?……。
「ん?…眠れないのか?」
「…はい」
ため息。考えごとをしてるってバレてる。
「……そうか」
あ。引き寄せられるようにして抱きしめられた。
「こうすると暑いか?」
「大丈夫、気持ちいいです」
甲斐さんのむき出しの肌、冷たくて気持ちよかった。もっと、と、すり寄り、肌を押しつけた。胸に手を置いた…肉質が全く違う、しっかりとした筋肉の胸…。
…甲斐さん。…私達はこれで良かったのだろうか…。体…、心もちゃんと繋がってるだろうか。